- 認定看護師会ミニコラム
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NICUやGCUで子どもたちや家族はどのように過ごしているか
掲載日:2022年3月24日新生児集中ケア認定看護師
桟敷 恵
新生児集中ケア認定看護師の棧敷(さじき)です。
西棟6階のNICU・GCU病棟で勤務しています。ドラマ「コウノドリ」などで認知度が上がったものの、まだまだ皆さまには知られていないことも多いであろうNICU・GCU。今回はNICU・GCU病棟に入院したお子さんがどのように過ごし、退院していくのかを簡単にお話していきたいと思います。
まずはNICUの説明から。NICUはNeonatal Intensive Care Unitの略で、新生児集中治療室といいます。予定日より早く生まれたり、疾患を持っているなど、高度な医療を要するお子さんが入院する病棟となっています。
お子さんの病状にあわせ、人工呼吸器や点滴など様々な医療機器が必要となるため、結構手狭な環境です。
入院が必要なお子さんは体温コントロールなど身体の機能に未熟なところが多く、私たちの過ごす環境では低体温や脱水を起こしやすいため、保育器という温度や湿度を個別に設定出来るベッドに入ってもらい、呼吸や循環など、病状にあわせた治療を行います。
ご家族は、様々な医療機器に囲まれたお子さんをみて、「NICU、という世界は知っていたけど、まさか自分の子どもが入院することになるとは思わなかった。」と予期せぬ事態にショックを受け、触れることも怖くてなかなか出来ないこともあります。ですが、どのお子さんもご家族に話しかけてもらったり、触ってもらうことが大好きです。スタッフとご家族では明らかに反応が違うお子さんもたくさんいます。ご家族の怖いという気持ちに寄り添いながらも、タッチング(触れること)や母乳塗布(口からミルクが飲めない時に、お母さんが搾ってくれた母乳をひたした綿棒を使って口に含ませてあげること。母乳には免疫物質など、必要なものがたくさん含まれているオーダーメイドの治療薬でもあります。飲みこめなくても、口に含むだけで効果抜群です。)などお子さんと触れあえる機会が作れるようサポートしていきます。
お母さんが入院中は、産科病棟のスタッフと協働して心と身体のケアを行います。お母さんたちはみなさん、自分を責めてしまったり、「我が子のため」と無理を押してたくさん頑張ってくれますが、お母さんあってのお子さんですから、お母さんがお母さん自身を大切にできるよう、情報交換をしたりしています。お母さんのサポートや、父親として我が子に向き合うお父さんへは、面会時に声をかけさせて頂いています。
はじめは姿勢を変えることも負担になるため控えていたところから、病状が落ち着くにつれて少しずついろいろな姿勢を取り始めたり(呼吸や消化が安定しやすいため、モニターで管理されているNICUではうつぶせで過ごす子が多いです。)、おむつ交換や瓶授乳、直接授乳やカンガルーケア(ご家族とお子さんが直接肌と肌と触れ合わせて過ごすこと。1時間以上行うと、お子さんの呼吸や循環が安定したり、家族の心のつながりを更に深めることができます。)など、家族が参加できるケアも少しずつ増えていきます。
さらに成長し、コットというベッドで過ごせるようになると、退院を見据えて育児練習が本格化していきます。この頃に、GCU病棟に移動となることが多いです。
GCUはGrowing CareUnitの略で、新生児回復期治療室といいます。
沐浴や退院後の生活についてのお話、昼間だけではなく、夜間帯のお子さんの特徴を知る機会としての長期面会、母子同室などを行いながら、退院後の生活への不安を減らせるようサポートしていきます。
退院する頃には、小さく弱々しかったお子さんがふっくらと肉付き良く、泣き声も大きくなるだけでなく、はじめは触れることすら恐々だったご家族が、「この子は前から後ろに頭をなでると寝るんです。逆だと起きちゃうんですよ。」などと笑顔でお話ししてくれるようになり、お子さんだけではなく、家族も家族として育まれる世界だと感じています。
おおまかにですが、このようにNICUやGCUでの時間を過ごしています。コロナ禍となり、面会時間など様々な制約ができてしまってはいますが、引き続きご家族とともにお子さんの成長を見守っていきたいと思います。
小児の内服
掲載日:2022年3月13日がん化学療法認定看護師
栗田 いづみ
新型コロナ感染症の拡大によって、日常生活にも様々な制限が生じていますが、入院中の小児も例外ではありませんでした。家族と離れての慣れない入院に加え、面会の制限や外泊の禁止、病棟の季節の行事は中止され、遊びの場であるプレイルームも自由に遊ぶことはできず、今まで以上に制限のある入院生活となりました。
そんな制限のある入院生活の中、治療を受けている小児は、日々様々な制約や頑張りを求められ、その一つに薬の内服があります。成人は薬の内服が難しいと聞く事はあまりありませんが、小児は乳児から幼児、学童と年齢が幅広く、成長段階にある小児では、時に薬の内服が困難となることがあります。薬の多くは成人が内服しやすいように開発され、錠剤の剤型をとっていますが、錠剤を内服できるようになるのは概ね6~8歳とも言われています。小児用の規格や剤型のない場合は、体重の少ない小児には、薬剤は粉砕して処方される事になり、薬の成分により苦みや酸味、ざらつきなどが生じ、より内服を困難にします。日々の看護の中ではどの様にすると内服できるかを母児と一緒に相談し、苦みや粉の飲みにくさを和らげるために甘味をつけたり、アイスやチョコに混ぜたり、味の濃い飲み物で飲む事などを試しながら飲みやすい方法を探していきます(飲み合わせについては病棟薬剤師とも相談しています)。また内服のために乳児や幼児では溶かした薬を乳首やスポイトを用いるなど、与薬の方法もそれぞれの児にあった物を選んでいきます。「飲むから待って・・」と必要性は理解していてもなかなか内服出来ずにいる場面にも出会う事もあり、内服出来た時には児の頑張りを認め内服出来た事を一緒に喜び、児の頑張る力を引き出すことが出来るようにかかわっています。
多いと一日に各食後で3回、寝る前の内服もある時には一日4回の内服があります。飲みやすい方法を一緒に考え、色々と試す中で上手に内服出来るようになり、剤形も粒で大丈夫と児の成長を感じる事も多くあります。点滴や処置など日々頑張りや我慢の多い入院生活の中で、小児が苦手な薬を頑張って飲めた事を成功体験として成長する事が出来るよう日々看護を実践し、早く新型コロナ感染症が落ち着き、以前の病棟の日常が戻る事を願っています。
認知症の人の見えている世界
掲載日:2022年3月1日認知症看護認定看護師
小沢 淑子
認知症看護認定看護師の小沢です。「認知症」と聞くと、ケアの拒否や暴言暴力といったイメージを持たれる方も多いと思います。それではなぜ、ケアの拒否や暴言、暴力が起こってしまうのか、今回は認知症の人の見え方に焦点をあてて紐解いていきたいと思います。
認知症の種類は部位によって「アルツハイマー型認知症」「レビー小体型認知症」「脳血管性認知症」「前頭側頭型認知症」の4種類に大きく分けられます。その中で「アルツハイマー型認知症」は海馬を中心とした側頭葉と頭頂葉が委縮していきます。側頭葉は記憶を保持したり言葉の理解をする機能、頭頂葉は視空間認知機能といって、目から入った情報を処理する機能があり、遠近感などを見分けています。その部位の機能低下によって、遠近感や立体感がわからなくなります。それに加え、高齢になると生理的に視力が低下し、全体がぼやけ黄色みがかって見えるようになります。例えば、床に点滴棒の影が映っていたら、それが影とはわからず、何か棒のようなものが落ちていると思い拾おうとすることがあります。またトイレの床の色が廊下と違って暗い色だった場合、その床が大きな穴に見えてしまうことがあります(下写真イメージ)。そんな風に見えていた場合、トイレに誘導したときにトイレに入らずに立ち止まり、さらに促そうとすると看護師を振り払って強く抵抗する場合もあります。ちょっと想像してみましょう。例えば自分自身が言葉の通じない外国で知らない人に大きな深い穴が開いていている場所に連れていかれそうになったらどうでしょう?不安と恐怖で何とかそこから逃げ出そうと考えるのではないでしょうか?認知症の人は、もしかしたらそのような感じ方をしているかもしれません。床が大きな穴のように見えることで不安や恐怖が沸き上がりますが、側頭葉の萎縮によって言葉でうまく説明することが難しく、トイレであることの記憶の保持も難しい場合があります。私たちはそこにトイレがあり、トイレに誘導しているつもりでも、認知症の人にとっては深い穴の開いた知らない場所に促され恐怖を抱いているかもしれません。
「レビー小体型認知症」は主に後頭葉にレビー小体という構造物が蓄積することで機能の低下を招きます。後頭葉は視覚をつかさどる部位で、レビー小体認知症の方はとてもリアルなはっきりとした幻覚が特徴となります。それが現実か幻覚なのかの区別が難しいとされています。例えば壁のハンガーに洋服をかけていたとします。それが、部屋に人がいてじっとこちらを見ているように見えていることがあります。もしそれがリアルに見えていることを想像すると、とても怖いですよね。
最後に「脳血管性認知症」についてですが、脳梗塞や脳出血などの脳血管疾患によって段階的に認知機能が低下していきます。その部位によって、半側空間無視といって、視力の障害はないのに、左右どちらか、半分に注意が向けられなくなります。例えば左半側空間無視があった場合、左側から声をかけることで突然怒り出すことがあります。これは、左側に人がいることに気づいていない状態で、突然人が現れた感覚になります。私たちも、歩いていて突然物陰から「わっ」と驚かされると、心臓が止まりそうなくらい驚いて、時には怒ってしまう人もいると思います。それと同じ現象が起こっていると想像できます。認知症の人が突然どなりだしたのではなく、ただただ驚いたというわけです。いかがでしたでしょうか?認知症といっても、記憶障害だけではなく、見えているものを処理する機能が低下することによって見え方が変わっていること、その現状を本人がなかなか理解できない場合も多く、不安と恐怖によって大きな声を出したり、思わず手が出てしまうこともあるかもしれません。このような見え方をしているかもしれないと知っておくことで、認知症の方が不安にならないかかわり方を考えていけるのではないかと思います。認知症の人の行動に「なぜ?」と考え、知ろうとすることが、認知症ケアの第1歩だと感じています。その「なぜ?」の1歩1歩を積み重ね、認知症の人も安心して入院できるような病院を目指していけたらと思っております。