- 認定看護師ミニコラム
- Certified nurse column
2021年12月07日掲載
札幌医科大学附属病院 看護部 認知症看護認定看護師
川村聡美認知症ケアにおいて最も大切なこととは?
今回コラムを担当いたします認知症看護認定看護師の川村です。2025年には、「65歳以上の4人に1人が認知症」の時代が来ると言われています。来年は2022年ですから、もう3年後のことです。昨今、様々なマスメディアで認知症について特集され、認知症について書かれた書籍も増えてきました。自分が認知症になった時にどうするか。今から考えておこう、備えておこうとする人が増えてきているのを感じます。自分に関わることとして認知症に関心を持つ人が増えてきたことで、認知症を取り巻く環境は、大きく変わってきています。認知症の人を中心とした考え方が普及し、認知症ケア加算が導入され、認知症ケアは充実してきています。しかし、認知症に対するイメージはどうでしょうか。「認知症になったら何もわからなくなるから大変だ」「認知症にだけはなりたくない」・・・など、認知症に対するネガティブなイメージは根強く、認知症の人はまだまだ辛い思いをしていることが多いのではないかと思います。
今回のコラムでは、認知症ケアにおいて最も大切なことは何かということについて、お話をしたいと思います。私は、認知症ケアにおいて最も大切なことは、「認知症の人の立場に立って考えてみて、安心できる環境を整えること」だと思っています。
大声で叫ぶ、暴力を振るう、何度も同じことを言う・・・医療の現場で認知症ケアの困りごとを集めると、沢山の困りごとが出てきます。しかし、これらの困りごとは、誰にとっての困りごとでしょうか。認知症の人本人は、大声で叫んでしまう、暴力を振るってしまう、何度も同じ事を言ってしまうということに困っているわけではないと思います。大声で叫んだり、暴力を振るわざるを得ないような絶望的な状況に追い込まれている、何度も確認しないとならないぐらい不安な状況に置かれている・・・本人の立場に立って考えてみると、安心できる環境がいかに大切かわかります。医療の現場では、どうしても治療や安全が優先されてしまいます。やむを得ないとは言え、身体拘束もなかなか減らない現状があります。治療や安全を優先することに慣れてしまうと、十分な検討をせずに身体拘束や様々な制限を強いてしまうことになります。私自身も、時折ハッとすることがあります。認知症ケアには、目新しい最新の技術も、最新の機械もありません。人として相手を大切に思い、向き合う。看護の基本とも呼べることが、認知症の人の安心につながります。
私たちが知ることができるのは、その人の人生のほんの一部分でしかありません。その人がどのような人生を歩んできたのか。家族のために身を粉にして働いてきた、自分を犠牲にして家族に尽くしてきた・・・頑張って、頑張って、沢山の苦労をしてきた人生の終わりの部分で、絶望的な思いや、悲しい思いをしてほしくない。そんな思いで、私は笑顔で接することを心がけ、認知症の人と日々向き合っています。笑顔で接すると、不思議と認知症の人もホッとした表情になり、やがて笑顔になる。これまでの実践の中で、これを実感する場面が多くありました。たった数十秒でも、笑顔で声をかける。これだけで、立派な認知症ケアの実践です。認知症の人の立場に立って考えてみて、安心できる環境を整えること。認知症ケアを実践する時に、参考になればと思います。